02 家畜たちの講和会議

原作者不明
日本語訳、潤色:池ノ内 孝

  <朗読>

 豚はこの上なくきたなく何の役にも立たない動物である —– 中国の大昔の本にはこう書いてあるものがたくさんあります。今日はこう書かれた本の中の一つを取り上げてみましょうか。

 昔々、豚はとてもがめつくて、自分勝手で、いつも腹を空かし、餌をとなるものを見つけてはむさぼり食っていました。豚は自分の草地の餌を食い尽くすと馬や牛の草地になだれ込み、馬や牛の草や餌を根こそぎ奪い尽くします。それも一度や二度のことではありません。永年にわたりこれを繰り返していたのです。こうした豚の行状にほとほと困り果てた馬と牛は会合を開くことになりました。ある馬がその会合の席でこう言いました。

 「どうだい。みんなで仲良く暮らせるように豚を誘って講和会議を開かないか。僕たち馬と君たち牛と豚の三者で話し合いをすれば、いざこざが続いているこんな関係を納めることができるかもしれないし、僕らはお互いもっとよい関係を作れるんじゃないだろうか」

 その馬がこう言うと、ある牛が答えました。

 「どうかしら。もう豚は何十世代にもわたって、天の作った柵を壊し、私たちの餌を横取りして、私たちの水を飲んで、私たちの清らかで美しい牧草を根こそぎ食い荒らしてきたのよ。私たちはそうされるのをずっと我慢してきたわ。まあ、何もしなかったと言ったら嘘になるかしら。たまには豚の行状に腹を立てた仔牛たちや仔馬たちが若い豚たちを蹴っ飛ばして傷つけたりすることもあったけれど」

 さきの馬が言いました。

 「そうした問題や暴力は正しくないし、このままにしておいてはいけないと思うんだ。天は僕たち馬も君たち牛も豚もみんな争わずに平和に共存することを望んでいるだろうし。もう一度聞くけど、どうだい牛と馬と豚の三者で講和会議をするって考えは?今まで積もりに積もった問題をここで一気に解決してしまおうよ」

 さきの牛が言いました。

 「私はみんなが仲良く暮らせるのであれば講和会議を開くことに異論はないわ。ところで会議を開くとしたら、私たち牛とあなたがた馬の考えを代表するリーダーが必要よね。誰が私たちのリーダーになるの。それとも私たちの真ん中に立って調停してくださるような、そんなふさわしい方を見つけてお願いするつもり?いずれにしても、まずは穏やかで優しい心を持つ方よね。それから豚たちは何かと因縁をつけるだろうけれど、腹を立てずに説得して、講和会議に招待することができる器量のある方がどうしても必要よね。とにもかくにも私たち牛やあなたがた馬の中で、豚の行状に腹を立てない穏やかな方、私たちの代表、リーダーにふさわしい方がいるかしら…。ちょっと待って、私、みんなと相談してみるわ」

 翌日、牛の中から推挙されたとても穏やかな性質の小さな牝牛が講和会議の使者に任命されました。そしてこの牝牛は早速、みんなの意向を代表して会議への出席を要請するために豚の家に赴きました。

 牝牛が豚たちの草地を横切っていたとき、若い豚たちがぶーぶー言いながらこぞってやってきました。ある若い豚が甲高い声で吼えかけました。

 「よくも俺たちのシマに入り込んで来やがったなぶー。姐さん、あんた、一匹で俺たち豚の一家に殴り込みにやって来たのかぶー?」

 「いいえ、私は暴力なんかするつもりはないし、したりしないわ」

 牝牛が言いました。そしてこう続けます。

 「私たち牛と馬とで相談してあなたがたと講和会議をしようという話になったの。お互いにいがみ合うようなこんな関係をいつまでも続けるのはどうかって。それで私はその会議にあなたがたをご招待に来たのよ。私は会議の使者なの。私は帰ったらすぐに、あなたがた豚が会議に出席するかどうかをリーダーに知らせるのが役目よ。だからあなたがた、会議に来てくれるかどうか決めてくださって。私はその結果を知りたいだけなの」

 牝牛がこう言うと、豚たちは顔を寄せ合って何やら豚語で話を始めました。駆け寄ってきた若い豚たちは、牝牛をそこに待たせておくと、少し離れた場所に移って話し合いを始めました。そして若い豚の代表が年寄りの豚のところに行き、若い豚の意見を伝えました。すると、年寄りの豚の一匹がこう言いました。

 「もう間もなく新年の宴会になるぶー。たぶん奴らはその宴会に俺たちを誘うのだから、歓待してたくさん御馳走をしてくれるのではなかろうか。行って腹の足しになるのなら、どうだみんなで行こうじゃないかぶー」

 こう決まると、年寄りの豚たちは宴会に出席するのが御馳走目当てだという腹の内を見透かされないよう、一族の中でいちばん弁が立つものを選ぶと上手に牝牛に出席を告げさせました。

 さて、会議の日がやって来ました。豚たちは打ち揃って会議に出かけました。もちろんお目当ては待ちに待った宴会の御馳走です。会議に出向く豚たちの数は全部で三百匹にも登りました。

 豚たちは牛と馬との講和会議の会場の草地につきました。そこには牝牛が一頭いて、少し離れたところに年老いた牡牛と牡馬の二頭が立ち会っていただけでした。豚たちがあれほど期待して待ちに待ってやって来た宴会の準備などはどこにもありません。

 会議場の真ん中に立っていた牝牛は素晴らしく美しい牛で、とても穏やかな優しい品のある態度で豚たちを出迎えました。しばらくするとこの牝牛は穏やかな声で豚たちに話しかけ、豚の群の中から最長老の豚を見出すとこう話しかけました。

 「私は牛と馬たちから選ばれたリーダーです。今日の講和会議にようこそいらっしゃいました。あなたが豚の最長老のようでいらっしゃいますね。豚のリーダーとお見受けいたしました。長老、私たち牛も馬もあなたがた豚のみなさんとみんな仲良く暮らしたいのです。どうですか、私たちはこの草地でもう二度と争わないという取り決めをいたしましょう。みんな仲良く暮らすのは素晴らしいことですし、また嬉しいことだと思うのですが」

 牝牛のリーダーは豚の長老にこう話しかけると、続けてこう言いました。

 「長老、あなたの一族に天が仕切った柵を越さないようにさせてください。そうすれば牛も馬もそれぞれ幸せに暮らしている草地をあなたがたに奪われることはありません。それぞれがお互いの領域の餌を食べればそれですむではありませんか。牛も馬も豚もそれを守って暮らしさえすれば、いがみあったり争ったりすることがなくなるはずです。この取り決めが決まれば、私たちの雄牛や仔馬が、あなたがたの子豚がもしあなたがたの草地を越えて私たちの草地の餌をあさるようなことがあっても、追い出そうとして傷つるようなことはしないことを約束いたしましょう。そしてこれまでのいさかいごとは今日限り、すっきり忘れることにいたしましょう」

 牝牛のリーダーが豚の長老に話しかけているその話を、若い豚が傍らで聞いていました。若い豚は牝牛のリーダーの話をここまで聞くと、意見を言わんとさっと立ち上がって、長老の豚を押しやってこう言いました。

 「この広い草地はそもそも天のもの。あなたがたのものではないではないかぶー」

 若い豚は続けます。

 「だから俺たち豚は、天に与えられた草地で餌を取っているのであって、あなたがたの草地で餌を取っているわけではない」

 さらに若い豚は続けます。

 「天は私たちを養うために餌というものを遣わされた。そして時として天は俺たちにトウモロコシやジャガイモを食べさせようとしてあなたがたの草地に俺たちを誘うのだ」

 若い豚はさらにさらに続けます。

 「天は毎日俺たちの囲いを雨という恵みできれいに洗ってくださる。そして夏が来れば、天は俺たちに体を洗うようにきれいな水で池を満たしてくださるのだ」

 若い豚はもっと続けます。

 「さて、牝牛のリーダーさん。あなたはこの草地も、この餌も天のものではないと言うのか。俺たち豚は天から与えられた餌を俺たちの好きなように食べればそれでよいのであって、そのためにどこへでも行くことができる。柵などはあってなきもの。俺たちはあなたがた牛や馬が食べ終えた後の餌を食べるだけだ。そしてもし俺たちがそうしなくても、いずれは大地がそれ食べて、土に帰るではないか」

 さらにどんどん若い豚は続けます。

 「あなたにお聞きしよう、俺たち豚のうちの誰かがあなたがた牛や馬、仔牛や仔馬を傷つけたことがあるか。答えは否だ。それどころか俺たちの子どもたちは毎年あなたがたの中にいる悪牛や悪馬に殺されているのだ」

 もっともっと若い豚は続けます。

 「あなたがたの餌とは何だ。実はそんなものは何もないのだ。だが俺たち豚は生きるために食べられるものなら何でも食べなければならない。」

 ずんずんずんずん若い豚は続けます。

 「天は俺たち豚をあなたがた牛や馬と同じことをさせようとしてこの世に創造したのではない。天は俺たちに来る年も来る年も同じように餌をお与えくださり、遊んで暮らすのを許してくださる。なぜなら天は俺たち豚を最も愛しているからだ」

 どんどんどんどん若い豚は続けます。

 「牡馬や牡牛はいつも働いているようだね。あるものは荷車を挽き、あるものは田を耕している。あなたがた牛や馬は働かねばならないように天から決められているのだ。たとい病気であろうと元気であろうとね。」

 若い豚はがんがん続けます。

 「俺たち豚は決して働かない。毎日楽しく遊んで暮らしている。俺たちはどんなに太ってもそうしていればいいのさ」

 若い豚はどどどどどと続けます。

 「あなたがた牛や馬は俺たちが骨を折って働いているのを見たことがないだろう。俺たちは働くような身分ではないんだ。ところがどうだ、あそこにいる年老いた牡馬や牡牛を見てご覧。二十年間働き続けているのだ。休みもなしに」

 若い豚はぐいぐい続けます。

 「俺は天は豚を敬っているんだと思う。ま、あなたがた馬や牛以上にね。」

 そう言うと若い豚は、こう話をまとめました。

 「牝牛のリーダーさん。俺が言わねばならないことはこれで全てだぶー。何か質問はあるかいぶー。私が言ったことは真実ではないかねぶー」

 これを聞いていた年老いた牡牛は、<もー、もー>と言って、悲しげにその頭を横に振りました。働きづめで疲れ切った年寄りの牡馬はこれを聞いて<ふー、ふー>と呻くと、その後は言葉を一切発しませんでした。そして牝牛のリーダーはこの若い豚の話を聞き終わると、がくりと首を垂れてこう言いました。

 「お若い豚、豚のみなさん。私たち牛や馬が、あなたがた豚を会議に招いた意味をおわかりではないようですね。理解が異なることについて、これ以上お互い理解を進めようとお話を続けても無駄なようです。私たち牛と馬の考えている天と、あなたがた豚が考えている天と、どうやら共通の意味で理解できていないようですし」

 牝牛のリーダーは最後にこう言いました。

 「間もなく新年の宴会が始まります。では、私はこれでさようならすることにします。私たち牛と馬、それと豚が末永くそれぞれ何の争い事もなく幸福に生きていくことができますように。残念ですが私たちの講和会議は決裂に終わりました」

 そういうと牝牛のリーダーと年老いた牡牛と牡馬の三頭は御馳走を期待していた三百匹の豚をそこに残して、仲間たちのもとへと会議の草地を後にして行きました。

 さて豚たちもすごすごと帰途に就きました。帰り道の途上、突然子豚が金切り声を上げました。それをきっかけに三百匹の豚たちは皆口々に叫び合いました。

 「ぶぃーぶぃー、勝った、勝った。俺たち、勝ったぶー!やった、やった、我らの勝利!ぶぃー、ぶぃー」

 一方、リーダーが帰って来て、牛や馬たちは豚との講和会議が決裂したことを知らされました。それを聞いた年寄りの牡馬と牡牛たちはひそひそ話を始めました。

 「私たちの方が、豚なんぞより力も強く、賢く、礼儀をわきまえ、ずっと役に立つ動物なんだがねえ…」

 そして、こう言いました。

 「なのにどうして天は私たちにこんな仕打ちをするのだろう…」


この物語の意味:

なぜあるものは他のものより力を持つのだろう。
なぜあるものは他のものより命が長いのだろう。
その答えは天のみが知っている。
なぜあるものは試みるにうまくゆかないのであろう。
にもかかわらずなぜあるものは試みもせずに成功するのであろう。
その答えも天のみが知っている。

 


(CHINESE FABLES AND FOLK SORIES [1903 American Book Company 版]より)

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