「こがね丸」のあらすじ

原作:巖谷小波 (少年文学「こがね丸」より)
現代語訳、潤色:池ノ内 孝

「こがね丸」(巖谷小波, 1921版) オンタイム・リーディング (青空文庫) [click here! ]
「こがね丸」 現代語訳 (池ノ内 孝 訳, 2013版) [click here! ]

少年文学「こがね丸」の<あら・あらすじ>

 
父犬(月丸)を大虎(金眸 [きんぼう])に食い殺され、母犬(花瀬)もそのショックで死に、孤児となった小犬(こがね丸)の物語。こがね丸は、花瀬の遺言で養育を頼まれた牡牛(文角)とその妻の牝牛(牡丹)によってたくましく育てられる。ある日、こがね丸は養父・文角から自分の出生の秘密を聞かされ、実の父母のかたきを討つことを決心し、腕を磨くために武者修行に出る。その修行の途上、困難を克服しつつ、猟犬 (鷲郎)と親友になり、めきめき成長し、金眸に対抗できるほど腕を上げるが、金眸の臣下であり、また父母のかたきでもある策士の狐(聴水)の罠にはまり大怪我をする。そうした中、親友の鷲郎の助力、白兎の名医 (朱目の翁)の治療を受け、全快。命を救ってやった雌鼠 (阿駒)の献身と親友・鷲郎と養父・文角の助太刀を受けつつ、聴水とその仲間を討ち、父母殺害の直接の下手人・金眸との壮絶な闘いの末、ついに本懐を遂げ、凱旋するまでを描く。

少年文学「こがね丸」[概説]

 
巌谷小波(いわやさざなみ)作のおとぎ話。1891年(明治24)博文館の「少年文学叢書」の第一編として刊行。挿絵は武内桂舟。小波の処女作で、父は虎に食い殺され、母も死んで孤児となった小犬のこがね丸が、文角という牛に育てられて成長、鷲郎という猟犬の助力を得てついに父のかたきを討つまでの物語。その間に善悪さまざまな動物が現れて筋立てにふくらみをもたせ、仮託された人生が描かれる。江戸時代の読本類の影響を受けて成り立っており、識者からは仇討モラルを称揚していると批判されたが、読者たる子供たちからは圧倒的な支持を得た。当時の児童文学に新生面を開くと同時に、小波に童話作家として立つことを決意させ、児童文学の道を歩むようになったともいえる。なお、この作品は文語体で書かれており、大正期の子供たちには読みにくくなったので、1921年(大正10)に口語体に書き直して刊行された。

当現代語訳の梗概

 
第1回
ある山奥の洞穴に一匹の大虎が住んでいた。虎の名前は金眸(キンボウ)大王という。山中の鳥や動物たちの王となり、大威張りで君臨しておった。彼には聴水(チョウスイ)という狡猾な古狐の提灯持の臣下がいたが、大雪が降り続くある日、その聴水が傷ついた尻尾を引きずって金眸の洞穴を訪ねてくる。聴水は金眸が久しい大雪で狩りもできず腹をへらし、また暇をもてあましていることを心得ていた。聴水はこの機会を利用して、獲物狩りという名目で金眸を誘い、自分の尻尾を千切ったものへの復讐を果たそうと企んでいたのだった。金眸は聴水の話を聞くと、狐の財産である尻尾を切られるという恥辱を受けた臣下の面目を立てることで、大いに他の臣下や支配する動物たちへの大義名分も立ち、もちろん狩りの獲物で己の腹を満たし、また久しい洞穴暮らしに飽き飽きしていたので、これは退屈しのぎと、聴水の誘いに乗ることにした。金眸はすっくと立ち上がると洞を出、聴水に案内させ雪深い山を下り、聴水の仇、己が獲物の暮らす山のふもとの庄屋の家へと向かうのであった。

第2回
庄屋の家には月丸と花瀬という主人に忠実な二匹の夫婦の犬が飼われていた。雪の中で二匹が戯れていると、裏の鶏小屋が騒然とする。狐(聴水)が現れたのだ。月丸は退治のために聴水を追う。すると、そこに突然大虎(金眸)が現れた。月丸と金眸は壮絶な闘いを繰り広げる。月丸の妻である花瀬は夫と大虎との闘いの一部始終を物陰から見詰めるだけであった。花瀬は月丸の子を身籠もっていたのだった。

第3回
夫・月丸を追うように花瀬は冥土へと旅立つ。実の父母が亡くなり孤児となったこがね丸は、花瀬が養育を頼んだ牝牛の牡丹とその夫の文角の元に引き取られ、養母の乳と義理堅くスパルタ教育の養父との愛情に包まれ、次第に剛健な雄犬へと成長していく。こがね丸は養父母をてっきり実の父母だと思い込んでいた。ある日、文角はこがね丸を招き寄せ、こがね丸の出生の秘密を告げるのだった。

第4回
悪虎と古狐に勝ち父母の仇を討つためには、まずは己れの力を蓄えねば成しがたいと知ったこがね丸は、野良犬の身となり諸国武者修行の旅に出た。ある日こがね丸は広い原野にさしかかった。横断せんとしたが、その思いも掛けぬ余りの広さに渇きと飢えにさいなまれる。身を寄せる場所もないまま夜が訪れ、厳しい寒さも襲って来た。最早これまでと路傍に座り込むと、どこからともなく火の玉が現われ、こがね丸を照らし導くのであった。

第5回
獲物の雉子の所有権を巡り死闘を繰り広げていたこがね丸と猟犬は、その隙を衝かれ猫に獲物を奪われてしまった。そのことを悔いた二匹は互いに名乗り合い、それぞれの身の上を知るうちに意気投合し、次第に絆を深めていくのであった。

第6回
義による兄弟の盟約を結んだこがね丸と鷲郎の二匹は、古寺を根城とすることを決めた。ある日こがね丸は町へ一匹で出ることになった。その帰り道のことである。こがね丸がある山の端の野菊の乱れ咲く原をふと見ると、そこには午睡に耽る尻尾の切れたキツネがいた。

第7回
こがね丸は仇の狐の聴水の後を追った。聴水が逃げ込んだ家で過誤により子供を倒したこがね丸は、その父親から手酷く叩きのめされ大怪我を負った。虫の息になっていたこがね丸は、鷲郎に助けられ、根城に帰った。しかし、こがね丸の傷は重く、寝たきりになってしまった。そこへ何者かに追われ雌鼠の阿駒が逃げてきた。こがね丸はその阿駒を匿う。後を追って現れたのは、なんと、あの雉子を掠め取った黒猫であった。

第8回
追われた雌鼠を匿い、あの盗人の黒猫を退治したこがね丸は、盟友の鷲郎とともにその肉をぺろりと平らげた。大男に叩かれた体の痛みは引いたものの、挫かれた右足は一向に快方へと向かわない。ある日、鷲郎は帰って来るやこがね丸に告げた。「南の方一里ばかりのところに名医があるらしい」自らの傷を治すため、こがね丸は一匹、鷲郎に教えられた道を辿り、医者の庵に向かうのであった。

第9回 [朗読 9-1、 9-2]
白ウサギの医者、朱目の翁に処方されたこがね丸は帰途、見知らぬ黒猿の矢の標的にされるが何事もなく寺に戻った。その晩こがね丸の骨折は完治してしまう。翁の言う通りであった。翌日再び翁の許へ出向き全快の挨拶をすると、翁はこがね丸に狐の罠とその掛け方を教えた。罠には餌として雌鼠の天ぷらが必要だという。寺に戻る途次、再び猿の矢に狙われたが無事に帰ったこがね丸は、心配して待っていた鷲郎に狐罠の相談をする。二匹が雌鼠の天ぷらの話をしていると突然鴨居から転がり落ちて来た者があった。

第10回
話は少し遡るが、こがね丸が鷲郎より朱目の翁の噂を聞き、足の骨折を治療する術を知り、施療に赴かんと明るい気持ちになっていたちょうどその頃、こがね丸に命をつけ狙われていることを身を以て知った悪狐聴水は怖れおののいた。聴水は、金眸に、金眸が噛み殺して餌食にした庄屋の飼い犬・月丸の息子・こがね丸が、親の仇として、自分の命とともに金眸の命も付け狙っていることを伝える。その報告を受けると星の数ほど怨みを背負う流石の金眸も些か怖れを抱き、配下に身辺警固の号令を発する。聴水も、己が命の恋しさに、こがね丸に関する様々な諜報活動を行ない、もう二度と命を狙われることがないよう、何とかこがね丸を葬り去ろうと画策していた。こがね丸の居場所、自分を追って走り込んだ家で大男に打ち据えられて酷い怪我を脚に負ったこと、今は動けずに疵の平癒を待っているところ、そうしたこがね丸の直近の情報を刻々と掴んでいた聴水であったが、そんなある日、傷めた脚の治療のためにこがね丸が朱目の翁の庵に出向くという噂を耳にした。その日がいつかを聞き出すと、聴水はこれこそ絶好の機会と、黒衣という弓達者の黒猿を仲間に引き入れ、こがね丸のいる荒寺と翁の庵との往復の山中に潜ませ、その黒衣の弓矢をもってこがね丸を射止めさせることにした。

第11回
こがね丸の骨折した足が全快する前にこがね丸を亡き者にしようと企んだ聴水は弓達者の猿の黒衣を仲間に引き入れこがね丸を奇襲させた。黒衣はこがね丸襲撃に失敗したが、襲撃の顛末を聞きに来た聴水に<こがね丸を射殺した>と嘘の報告をするのであった。聴水はその報告を信じて大喜びすると、すぐさま大虎金眸大王の洞へと向かい、こがね丸射殺の件をいち早く伝達した。これを聞くと金眸大王も大いに満悦し、慶びと労いの宴を開くことにし、その催しの取り仕切りを聴水に命じるのだった。

第12回
弓達者の猿の黒衣に<こがね丸を射殺した>と嘘の報告を受けその報告を信じた悪狐聴水であった。大虎金眸大王は聴水からその話を聞くと大満悦し、聴水に宴を開くよう命じた。聴水は大牛(こがね丸の養父・文角)が曳く荷車から魚を盗むと、そこに偶然通り掛かった黒衣と二匹でその魚を金眸大王の洞へ運んだ。酒宴が催され、唄や踊りが披露された。仇として付け狙われているその重圧から解放され金眸大王は酔い潰れ、聴水もほろ酔いになると中座し、洞を出、自分の巣に戻ろうと、十日の月の輝く山路を行くのであった。そのときのこと、どこからともなく聴水の大好物の雌鼠の天ぷらを揚げる匂いが漂って来るのであった。

第13回 [朗読 13-1、 13-2]
<こがね丸射殺の宴>この金眸大王主催の酒宴で酔った聴水が山の巣に戻ろうとした時聴水の大好物の雌鼠の天ぷらを揚げる得も言えぬ匂いが漂って来た。聴水はその馨しい香りに誘われて里の方まで降りて行きとある笹藪で雌鼠の天ぷらを見つけた。聴水はそれを喰おうとかぶりつこうとした、まさにその時、突然首に縄紐が掛かって引き倒された。聴水は狐罠に掛かったのだった。罠と知った聴水は縄から必死に逃れようとする。そこに死んだはずのこがね丸とその仲間の犬・鷲郎が現れる。罠に掛かった狐を聴水と見定めると、こがね丸と鷲郎は仇の聴水を殺そうとする。そのとき、突然彼らの背後から声が掛かり彼らを押し止めた。そこにいたのは山のように大きな獣であった。二匹が見上げたその獣は、こがね丸の養父・牡牛の文角であった。

第14回 [朗読 14-1、 14-2]
聴水は狐釣の罠に掛かった。罠と知った聴水は必死に逃れようとする。そこに現れたのは死んだはずのこがね丸とその仲間の犬・鷲郎であった。こがね丸と鷲郎は仇の聴水を殺そうとするが突然そこに現れたこがね丸の養父・文角に押し止められる。それは金眸の洞の情報を聞き出すためだった。文角は聴水を引き据え、逃れられないようにすると、聴水への訊問を始めた。聴水は文角の赤心籠もる説得に次第に心を開き、これまでの行いを悔い改めていく。暫くすると聴水はこがね丸に質問をした。あの森の中で黒衣がこがね丸を矢で射た事件のことであった。

第15回
聴水はこがね丸らがかけた狐罠に掛かり虜の身になったが、猿の黒衣の弓により射殺された筈のこがね丸が何故生きているのか不思議でならなかった。こがね丸の話を聞いて、聴水は盟友の黒猿の黒衣に騙されたことを知った。それを知り悔しがった聴水であったが、今となっては後の祭、すっかり観念すると、次第に穏やかになり、悪虎・金眸大王の洞までの道程、洞の位置、洞の備えについて、ありのまま正直に語った。こがね丸の友・鷲郎は、積悪を悔悟し、観念し、改心して、正義を果たす介添えのために諸策を建言する聴水の態度に感激して、聴水に代わって黒衣を討とうと申し出る。聴水は鷲郎の情け深い申し出に感動し、礼を述べると、安堵して静かに目を閉じ、こがね丸に討ち取られるその時を神妙に待つのであった。こうしてこがね丸は聴水の喉笛を破り、仇の片破れを討ち取った。残るは大悪・金眸のみとなった… こがね丸は鷲郎と文角と共に聴水から教えられた獣道を辿り、金眸の洞へとひたすら向かった。そしてその途上、路傍の薮蔭から突然、酒に酔った一匹の黒色の大猿が現れたのだった。

第16回 (完)
こがね丸は鷲郎と文角と共に聴水から教えられた道を辿り金眸の洞へとひたすら向かう途次偶然にも酒に酔った猿の黒衣に出遭った。言い逃れをしてその場をなんとか逃れようとした黒衣であったが果たせず、鷲郎は見事その首を咬み切って討ち取り、聴水との約束を遂げたのであった。鷲郎は転がった黒衣の首級を口に銜え、再び三匹揃うと、一同は老虎金眸の棲処の洞へ先を急ぐのであった。さて、しばらく行くと三匹は断崖絶壁に行く手を阻まれた。それより先は辿る径も見当たらず、路に迷ったかと思ったその時のことである。ふと見上げた岩棚の上に、榎の大木が生え、鬼蔦が繁茂し蔽い被さっている処がある。そしてその榎の大木の傍らには、ぽっかりと口を開けた黒々とした洞穴らしきものがあるのを見つけたのだった。


こがね丸
著者:巌谷小波
現代語訳、潤色:池ノ内 孝


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底本:「日本児童文学名作全集(上)」岩波文庫、岩波書店
平成6年2月16日第一刷発行
底本の親本:「こがね丸」博文館
明治24年1月初版発行
現代語訳底本:青空文庫 図書カードNo.3546 こがね丸
http://www.aozora.gr.jp/cards/000981/card3646.html

参考)

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「黄金丸」「黄金司」「金毛丸」の見分け方 ― サボテンの話 (笑)

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写真) 左から「黄金丸」「黄金司」「金毛丸」

Koganemaru_KoganeTsukasa_Kanegemaru

私には見分けがつかないので、
以下のHPなどを参照してください (笑)

Saboten World :「黄金司」と「黄金丸」の花が咲いた …
黄金司にはやや赤い色の中棘があるのに対し、黄金丸には中棘がありません。

サボテンの写真のページ:「金毛丸」
巻き毛の様な棘が一杯です。群生するヤツの様です。刺さらないので掴みやすい。

 
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