雨にもめげず
秋村
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雨が降れば濡れるから足袋や草履や着物が傷むといい
風が吹けば外は危ないといい
雪や夏の暑いときに出歩くバカはいないといい
いつも建物や車や身を守ってくれるものの中にいて
子どもの頃から病弱で体が弱いふりをするかげで
交通費の節約のために足腰を鍛え
欲が強くケチでソロバン高く
苛々しては目くじらを立て家人を怒鳴り散らし
一秒たりとも落ち着いていることができず
いつも眉間に皺を寄せ口をへの字にして貧乏揺すりをし
他人の前や客が来れば好々柔和な顔に早変わりする
一日500円の小遣いでその日の必需のすべてを済ませ
残りのカネは貯蓄と投資とローン返済に回し
朝早く起きては新聞の株式欄に目を通し
チラシで値段の安い店か同等品を選び、妻に知らせ
昼休みは証券会社の電光板で目を光らせている
あらゆることを計算づくし計画づくし
自分の得にならぬことはすっぱり断り
よく見聞きして巧い話や欺しや騙りや嘘を見破り
手口・手筋や仕組みをよくわかり
知恵比べだと発憤しては相手を逆にワナにはめる
交通至便で閑静な
高級住宅街と呼ばれるところに倹約して居て
東に病気の子どもあれば
付き合いだから仕方ない、ドネートしておけ、といい
西に疲れた母あれば
行政に相談したらいいといい、自分では何もせず
南に死にそうな人あれば
「あっ、そう」といい、それで済ませ
北に喧嘩や訴訟があれば
くわばらくわばらと遠ざけ高みの見物をし
下調べや研究やが必要なことは正直者から結果を聞き出し
生来意気地がないといっては他人に泣きついて
DQNを疑われるような言動は決してせず
ヒデリのときは農産品と先物欄に目を光らせ
寒さの夏は冷房代が掛からずに済むと言って安堵し
表向きはみなに勝ち組、お大尽と呼ばれ
陰口を叩かれても負け組のタワゴトと取り合わず
頭がいい、賢いと褒めそやされても
学歴と地位とカネと経歴で特別扱いされても
おだてにのらずしたたかに
成功者として調子よく
勲章をもらい歴史に名を残す
サウイウモノニ
ワタシハナリタクナイ
と言うものを見下しては
鼻で笑ってバカにする
そんな人間に
私はなりたくない
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〔参考〕
〔雨ニモマケズ〕
宮澤賢治
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
南無無辺行菩薩
南無上行菩薩
南無多宝如来
南無妙法蓮華経
南無釈迦牟尼仏
南無浄行菩薩
南無安立行菩薩
出典:「校本宮澤賢治全集第十三巻(上)」
筑摩書房 青空文庫より
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註:
DQN(どきゅん):”粗暴そうな風貌をしている者”や実際に”粗暴な者”、
また”非常識で知識や知能が乏しい者”を指すときに用いられる。また人生
に確固たる目的も持たず、反社会的な行動をとったり、自堕落な生活を送
る者を個別にあるいは総称する蔑称。この言葉を最初に使ったのは「マミ
ー石田」で、テレビ朝日系(ANN)で1994年から2002年まで放送されて
いたテレビ番組『目撃!ドキュン』に出演した一般の方々のライフスタイル
や価値観について、氏のウェブサイト上で学歴の低い者が番組出演者のよ
うな荒んだ人生をおくるのは必然であるという趣旨の発言をしたことが由
来だとされる。こうしてこの「ドキュン」は当初、低学歴者に対する蔑称
だったが、現在では、社会常識に欠けている者、または知性に乏しい者全
般を指すように拡大解釈されている。
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(26Aug13)