‘The Book of Tea’_018 (§2-01)

book of tea-ikenouchi

II. The Schools of Tea ― 茶の湯を学ぶ

018 (§2-01)

Tea is a work of art and needs a master hand to bring out its noblest qualities. We have good and bad tea, as we have good and bad paintings–generally the latter. There is no single recipe for making the perfect tea, as there are no rules for producing a Titian or a Sesson. Each preparation of the leaves has its individuality, its special affinity with water and heat, its own method of telling a story. The truly beautiful must always be in it. How much do we not suffer through the constant failure of society to recognise this simple and fundamental law of art and life; Lichilai, a Sung poet, has sadly remarked that there were three most deplorable things in the world: the spoiling of fine youths through false education, the degradation of fine art through vulgar admiration, and the utter waste of fine tea through incompetent manipulation.   

018 (第二章 第一節)

 茶の湯というものは一芸であり、それぞれの茶のもつ品位・品格を最高度に引き出すためにはどうしてもそれに精通した名手の技が必要になります。しかしたとい名手であろうと美味くもなれば不味くもなる。それは一流の絵描きでも名作もあれば駄作もあるのと同じことです。まあ、後者の場合が往々であります。こうすれば完璧なものを点てられるなどという秘訣なぞありはしません。15世紀のイタリアの画家ティツィアーノや日本の禅僧で水墨画家の雪舟の作品を他者が描こうとしても、彼らの絵画制作には一定のルールがないのですから、描けるものではないのと同じことです。

 茶葉を茶の湯のために製り上げるにも、それぞれの茶葉の性質やその年の茶の作柄の出来不出来によって各々異なります。また茶を点てるに用いる水、湯の沸かし方、温度が点茶の味覚に決定的な影響を与えます。さらに点てたもので何を伝えようとするか、すなわち茶席で点てる茶で何を語ろうとするかそれ自体も、その点てる人、その時節、時々によって個別の表現方法を持っているのですから、こうした千差万別の情況を一元化する奥義が茶の湯にはあるはずもありません。

 真の美とは常にこうした千差万別の中に存在するのであって、壺の中に美が入っているよ、だから覘いてごらん、なぞと言われて、覘いた壺の中なぞに入っているほど甘くはありません。そんなものはみな与えられた美で、美とは言いません。美とは千変万化の中から自ら見出すものなのです。それが審美眼です。

 さて、こうした芸術と人生にかかわる単純で根本的な法則を悟れないばかりに社会は常に誤りを犯してきたわけですが、それで私たちはどんなに苦悩してきたことでしょう。李之来という中国の宋の時代の詩人は、すなわち、一つ、誤った教育によって素質のある有望な若人をてんで駄目な人間にしてしまうこと、一つ、低俗で粗野で俗悪で教養のない褒めそやしや下馬評によって素晴らしい芸術をすっかり台無しにしてしまうこと、一つ、茶の湯・茶の美とは何たるかを知らぬものが点てることで素晴らしい資質を備えた茶を空しくも無駄にしてしまうこと、この三つこそが、この世で取りかえしのつかぬ最も嘆かわしいことである、と憤慨して述べています。   

▼▽▼▽▼ 掲載日 ▼▽▼▽▼  

16feb2013  

About 池ノ内 孝    Takashi (Kou) Ikenouchi
a haiku poet (俳名:秋村 [Shūson]), an actor, pure-Japanese, Tokyo Japan

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